ブータンに魅せられて (岩波新書 新赤版 1120)
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カスタマレビュー
GNHの秘密には迫り切れていないかな・・ ( 2008-04-21 )
ブータンについてはすでに数冊の著書・訳書を持つ今枝氏だが、
本書は『ブータン仏教から見た日本仏教』との重複がやや多いように思えた。
前掲書から、著者の生い立ちや仏教の教義面での比較考察を取り除き、
かわりにブータンとのかかわりを前面に押し出したのが本書という感じで、
経済発展に替わるGNH(国民総幸福)の概念が注目を集める今、
本書が岩波新書として書き下ろされたこと自体には、
それなりの意味があるのかもしれないが、内容的にはいささか
隔靴掻痒の感を免れなかったというのが正直なところである。
ブータンが、事実上の鎖国を続けていたために、
経済的には最貧国の一つながら、人心の幸福や環境の保全を
最重視する国づくりを進めることができたのだとして、
近隣の仏教国であるチベットやシッキムが、
やはり20世紀半ばまでは同様の鎖国状態にあったにもかかわらず、
現在はそれぞれ中国・インドの支配を受けている事実を考えると、
おそらくそこには、地政学上の幸運というものが大きくあずかっているはずで、
それを仏教の影響や、前国王の英明さといったことだけで説明し切れるかとなると、
いささか疑問という気がしないでもなかった。
また、これは前掲書を読んだ時にも感じたことだが、
ブータンの民衆に対する仏教の根付き方を描くエピソードが
いくつか紹介されてはいるものの、それらはおおむね、
「ブータンでは経典それ自体が尊崇を受けている」といった、
どちらかといえば表面的なものに留まっていて、チベット仏教一般と異なる
ブータン仏教ならではの特色には、もうひとつ迫り切れていないように感じた。
仏教はむろん学問に尽きるものではないのだから、
もっと直截に人の生き死ににかかわるような、
ギロリとしたところを出してくれないと、と思ってしまうのは、
いささか無いものねだりが過ぎるということになるだろうか。
(これが中沢新一なら、見てきたような嘘を語るはずのところで、
それよりは著者の誠実さのほうを取りたいとも思うのだが。)
仏教が生活と一体化した国の奇妙な日々 ( 2008-04-14 )
10年間ブータン国立図書館顧問を務めた著者は全国各地の古刹へ助手と寺へ調査に出かけるのだが、入れてもらえない。「行き損になった」と怒り心頭の著者に、助手「母の供養のためにこれてよかった」と満面の笑み。著者にとって調査対象でしかなかったブータン仏教が、生活に深く根付き、ホスピタリティあふれるブータン人を生み出している。ブータン国立図書館では貸し出しもするのだが、その理由が面白くて、法事で使うからという。チベット仏教の経典は古代の研究対象でしかないように見えて、現代のブータン人の生活にしっかり根付いている。
また、仕事柄、名君として知られたワンチュク前国王とも交友が深い。気さくさや外国人への気遣いに触れられていて、名君の人となりを描いていて、なんとも浮世離れしたヒマラヤのふもとのなぞの国家について、深く書かれている。
豊かさとは? 人間らしさとは? ( 2008-03-24 )
ブータンは、GNP(国民総生産)ではなく、GNH(国民総幸福)を国王が提唱している。
ブータン関係の本は多いが、コンパクトにこの理念を解説したという点で、
ある程度評価できる本だと思う。
ブータンの方針をどうとらえるかは、人さまざまだろう。
ブータンも当然、経済発展は心がけている。しかし仏教国として、
経済発展が国としての究極の目的ではない――というのがこの国の理念だ。
いわば、人生の充足感を得られるかどうか、ということだ。
チベット仏教研究者として、長くこの国と関わってきた著者が、
信仰に生きる人々の暮らしや国王の施策などをつづる好著だ。
文化を守る、森林を守る、自然を守る、穏やかに生きる……
現代人が忘れかけているこれらのことが、押しつけがましくなく語られる。
もちろん、貧しいより豊かなほうがいい。しかし経済的に貧しければ豊かではないのか。
ともすれば陳腐な問いかけになるこのことを、本書は投げかける。
コンビニのある生活もいいが、ブータンで暮らすのも悪くないと思わせてくれた。
なお、ブータン関係の新書では「美しい国ブータン(リヨン社)」もお勧めだ。
