シオニズムとアラブ ジャボティンスキーとイスラエル右派 一八..
シオニズムとアラブ ジャボティンスキーとイスラエル右派 一八八〇~二〇〇五年 (講談社選書メチエ 418)
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カスタマレビュー
分離壁の根源に脈々と流れるイスラエルを突き動かす思想 ( 2008-08-29 )
原罪を抱えている欧米はともかく、日本にとって「パレスチナ」問題というのは遠い世界の出来事に過ぎず、報道だけでは絶対悪のイスラエルと被害者としてのアラブという単純な構図しか見て取れない。
しかし、ついに現代イスラエルを理解するに最適の一冊が世に出ました。読み終えたときにイスラエルに対する眼差しは綺麗に変わっていること請負の一冊です。ベギン、ネタニヤフ、シャロンといったリクードの歴々のみならず、労働党のラビン首相にしても結局はジャボティンスキーが提示した思想との距離の問題であることがわかる。
思想と一口に言っても分かりづらいかもしれないが、ジャボティンスキー氏の経歴を辿ることで思想の揺籃地から丹念に掘り起こし、思想といいつつとことんまでリアリズムに裏打ちどことかせめぎあいが含まれているところがその後のイスラエル政治の問題をそのままなぞらえていることが理解される。つまり、圧倒的なまでの力への信頼と同時に限界の認識、民主主義であるがゆえの、過激化する民族主義との折り合いの困難さ、多民族国家それもともすればユダヤ人が少数民族に転落しかねないという危機意識と、大イスラエルとして領土を拡張しアラブ人を飲み込もうとする矛盾などなど。
そこまでの問題に対する最適解としての「鉄の壁」という思想について、戦慄するだけでも知的興奮は折り紙つきだ。
力作です ( 2008-08-18 )
とうとうこういう作品が日本語で出版されるようになったかというのが、正直な感想でした。ジャボティンスキーについての作品は邦語ではなかったはずです。英語でも党派的な臭いをただよわせた伝記以外は余り見当たらないようです。いろいろな作品に(たとえばケストラーの自伝)、ジャボティンスキーは出てくるのですが、どういうわけか、ほとんど彼の思想や政治的な立場が細かく解説されることはまれです。本書の狙いは2重の意味で大胆です。ジャボティンスキーの思想形成とその核そして微妙な綾をたどるだけではなく、それが現代のイスラエル政治ならびに中東外交にまで及ぼしている影響をたどろうというものです。筆致はかなりアカデミックで、細かい論点の整理が各所でなされており、慣れるまでは、読みにくいかもしれません。オーストリアやオスマントルコ帝国の民族事情まで、対象にされますので、シオニズム運動そして中央東欧のディアスポラ事情についてのある程度の知識が必要です。しかし94ページの「ジャボティンスキーのアラブ観とイスラム観」までたどり着くと、後は一気に読ませてしまいます。この部分は、この作品のハイライトです。ここではジャボティンスキーの敵を敵として対等に「誠実」に扱ったリアリストたる側面が「鉄の壁」の正当性を論ずる中で見事に描写されています。武力こそが合意の前提として必要であるという硬い意思です。戦後のイスラエル政治史が概観されますが、そこで浮かび上がるのは、シオニスト左派(労働党)の逆の意味での「不誠実さ」です。本質的に、ジャボティンスキーの修正主義の立場に回帰せざるを得ないのがシオニズムの本質にも関わらず、「階級」という回路でアラブ人との和解を目指すという立場の曖昧さと知的な非誠実さは対照的です。著者が語る1977年以降の軌跡は、この両立することのないイスラエルとパレスチナの立場を克明に物語るものです。
