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カスタマレビュー
スペインちらちら ( 2007-05-31 )
1999年に福音館書店から出た単行本の文庫化。
もともと雑誌『母の友』に連載された絵+エッセイを一冊にまとめたもの。
著者はスペイン在住の画家(男性)で、本書にも豊富な絵が収められている。癖の強い独特のタッチでスペインの風景や日常が描かれている。カラーでないのが残念。
文章もあくが強い。皮肉味が強い。人間観察は鋭いと思うが、ちょっと卑俗に過ぎる点も。人間の欠点や悪を透徹した視線で眺めている。
ただ、掲載誌の性格もあってか、前著『アンダルシアは眠らない』よりは、だいぶ読みやすかった。
スペイン人には「NO」と言うべし ( 2006-10-07 )
堀越千秋さんはもともと画家だけど、プロ級にカンテを歌い、本をたくさん書いているのでプロのエッセイストとも呼ばれるマルチな人だ。マドリッドに住み続けて約七千一夜、というのがタイトルの意味だそうである。
この方の書くものはクスクス笑いながら読めるものが多くて、さすがにマルチな人だけあって文章もうまい。その上スペインにお住まいなのでおかしなネタに事欠かない。
そうそう、わたしもかの地に在住の折はバルで延々と繰り広げられる議論の数々にはめまいを覚えたものだし、窓口に客の列を残してコーヒーを飲みにいく銀行員だって多く見て来た。何度も日本人だと言っているのに「君たち中国人は」と言われたたくさんの経験も持っている。
スペイン人には「はい」と言ってはいけない、という。「NO」こそ存在証明であり、会話の始まりであるという。わたし達日本人は人が良いので「スペインは好きか」と問われるとついつい「Si」と肯定してしまう(本当なんだし)。しかし、そこはこらえて「NO」と言うべし。とたんにスペイン人の目は生き生きと輝き出す。まさにその通り!
故郷礼賛、家族礼賛、自己礼賛の三大叙事詩はスペイン人の永遠のテーマである。割り込みはスペイン人のお家芸。そのほかにもお家芸はたくさんあって、その名は「言いくるめ」「空手形」「現金」「泥棒の恩着せ」などなど。そうはいっても、昔はただの「スペイン人」だった彼らも今や「ヨーロッパ人」となり、結構忙しくなっているとのこと。今じゃバルは夜の12時に閉まるという。せちがらくなりました。
フラメンコの魂ドゥエンデの為せるワザか、この方の文章には凄みのある表現がときたま顔を覗かせてそれがまたおかしくも魅力的。アラブ人のおばあさんである大家さんが、前歯を「墓石のように」ぐらぐらとゆすってみたり、イベリア上空を「死者の魂のように」西に向かってみたり。
吸殻の思い出 ( 2005-10-04 )
堀越千秋が本を出すたびに胸がときめく。
中立性もへったくれもありはしない。好きなのだ。
さて「スペイン七千夜一夜」については少し目先を変えてレビューを
してみよう。
彼の文章を読むといつも、その江戸っ子風の批判精神、カブいた感じ
の佇まいに幻惑されてしまうのであるが、実は、彼の文体はとてもシン
メトリックでよく計算されている。「俺は計算なんかできねーんだ
よ!」という語りくちであるが、爪に火を灯すような細やかな配慮を繰
り返し行っている。導入部の複線が最後にビシッと効いてくるから読ん
でも読んでも飽きない。
私は、彼のそういう読者への配慮には常に胸を打たれる。
内容については一点だけ触れたい。彼が昔スペインの某所で車の事故
に遭い大怪我をしたとき、手術中に「何かふわふわしたもの」が落ちて
きた。何だろうと見ると、それは医者が吸っていたタバコの灰だったと
いう話がある。私はこれを見て、さもありなむと思った。
サグラダ・ファミリアの入口に立つ警備員は、警備しながらタバコを
吸っていた。しかも吸殻を下に捨てていた。こういう人物が通報もされ
ず仕事をまっとうできるのか、と驚いた。こういううやむやさがスペイ
ンの面白さだ。だから堀越千秋の言うように、鷹揚に流されたくなかっ
たら、自分で自分の尊厳を確保すること。
つまり、スペインでは即座に「ノー」ということが大事なのである。
