オールコックの江戸―初代英国公使が見た幕末日本 (中公新書)
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カスタマレビュー
外交官に代わる回顧録 ( 2003-09-30 )
英国の初代駐日総領事オールコックの駐在時期1859年から62年までの、彼の生活、幕府との折衝、本国とのやり取り、当時の日本国内情勢への彼の見方などを、回顧録的に書いた本である。オールコック自身の著「大君の都」が岩波文庫全三巻で存在するが、大部なので、この本を読んでも大体のことは分かりそうである。
この本の特色は、彼が本国の外務大臣、次官に宛てた公信記録を多く読み込んでいることである。これをベースに他の資料を参照しながら、オールコックに「代わって」回顧録を執筆したような感じに仕上がっている。従って、自伝を読むようで、面白いが、全くの自伝でもなく、彼を突き放して見ているところもある。これまでこうした本はあまり無かったと思われるが、考えてみると、例えば日本の明治の政治家などについては、その残した日記などをベースに同じような試みが多くなされている。結局、英語の原史料を読めるチャンス・能力のある人が、今までこういう分野に興味を持たなかったということかも知れない。
色々な読み方の出来る本である。発展途上国政府と交渉するというのは今でもこんな気持ちになるのかなあ、と実感できる部分もあるし、出先が本国、本社を動かすときは疲れるなあと共感する部分もある。また、こういう外交官が多くいたから、大英帝国が世界をリードできたんだろうなあと、現在の日本に引き比べて考えさせられる部分もある。
愛情と冷静な史料分析をもとにした「外交の文化史」の好著 ( 2003-09-14 )
初代在日英国公使オールコックの等身大の人物像を通して見た「外交の文化史」である。陳腐な例えで恐縮だが、著者は、まるで歴史小説を読むように読者を夢中にさせる筆力を持っている。自らも国際交流を生業とする著者は、オールコックへの過度とも言える感情移入と、冷静な史料分析との間を微妙なバランスをとりつつ、幕末の英国外交官の活動と日本社会を再現している。この微妙なバランスが、緊張感を呼び、読者もまたオールコックを通してみる幕末日本に感情移入されるという仕組である。読者はまさに手に汗を握ることになる。
特に日本側の対応に何度も煮え湯を飲まされながら、ロンドン万国博での日本紹介に心を注ぐオールコックの姿に心を打たれる。またロンドン万国博への道中をともにした日本人官僚との交流などの微笑ましいエピソードに満ちている。著者の脇役に対する配慮も主人公オールコック譲りである。
現在の我々の視点は、幕末の日本人より、オールコックの視点に近いのかもしれない。読者は、かつての日本文化に郷愁を抱く。外交官としての使命と日本文化への愛情の間で、バランスを取りながら、自らの使命を全うしたオールコックの人物像。本書のキイワードともなっている「旅」という言葉にからめて、著者は、オールコックの引用した詩で、この書を閉じている。
「注意なさい、旅のお方! 何か見るに価するものを心に留めて、出かけたときより賢くなって戻らなくては、どんな旅をしたって、鹿の角笛をあげるわけには行かないよ」
もしオールコックが本書を読むことができたら、大きな素敵な角笛を貰えるに違いない。歴史好きの人、国際交流に興味を持つ人、旅が好きな人、ほとんど全ての人に薦められる好著である。日本発と国際機関発の二つのペクトルが交差するところに自分の使命があると語る著者の今後の活躍が大変楽しみである。
