ダルフールの通訳 ジェノサイドの目撃者
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人間として知っておくべきこと ( 2008-10-10 )
ダルフールのことを初めて知ったのは、実はアメリカのドラマ『ER』だった。難民を治療するボランティア活動の話で、アラブ系の民兵によるアフリカ系住民の虐殺が描かれており、番組の最後にはダルフールでいま起きている現実なのだといったメッセージがあったように記憶している。ところが、日本ではドラマどころか、テレビや新聞などマスメディアがダルフールの虐殺を報道することはまずない。スーダンに石油利権をもつ中国に遠慮しているのか、政府の反応もきわめて消極的。そこでは人類史上最悪かも知れないジェノサイドが行われているというのに。ダルフールの虐殺を解消するには、まず世界中の人々がその事実を知ることが必要だ。そのためには、ベストの一冊だと言ってよい。書かれている内容は極めて凄惨であるにもかかわらず、著者のもつユーモアとあくまで希望−人類に対する希望を捨てない前向きな姿勢が、さわやかな読後感すらもたらす。ぜひ多くの人に読んで欲しい。
難民キャンプからの静かなメッセージ ( 2008-10-05 )
Darは「土地」 furは「フール人(族)」を意味する。チャドとの国境に沿ったスーダン西部の地域で面積は493,180kuでスーダン全土の2割近くを占める。1956年の独立以来、政権は少数派であるアラブ人の手にあったが定住するアフリカ人諸部族と遊牧アラブ人は対立しつつも共存を続けていた。しかし近年、対立は先鋭化しバシール将軍の支援を受けるアラブ民兵軍(ジャンジャニード)がアフリカ人の村落を攻撃し続け、多くの難民を隣国チャドへ送り込んでいる。このような攻撃の激化の背景には水飢饉による部族の移動、シャリーア(イスラム法)の強制などがあるが何よりも大きいのは南部に大量の埋蔵石油が発見されたことであった。ダルフールの様相は民族の大量虐殺(ジェノサイド)と見られ、バシール将軍は本書の出版後に国際司法裁判所の訴追を受けている。(本書の著者が訪れた時、10箇所ほどに分かれたチャドの難民キャンプの名簿には250万人の氏名が記録されていた。)
題名の示すように著者はダルフールの一部族(ザガワ)に属し、ザガワ語、アラビア語、英語の知識によってそこを訪れる欧米人記者の通訳となった。本書は著者の生い立ちや家族の回想に始まっているが主としては通訳として働いたここ3年ほどの経験が描かれる。彼はその仕事によってスーダン政府のお尋ね者となり、拘留され、拷問され、民兵の気まぐれひとつであの世へ旅立つ運命の淵に幾度となく立たされた。彼はまたその命知らずの行動の過程で幾多の惨状を目撃する。惨劇は女子供を容赦しないどころか、女子供こそが狂った兵士たちの目ざす獲物であった。惨状は取材にあたった剛毅な西洋人記者を嘔吐させ、涙にくれさせた。読者は人間が人間でなくなるのはなぜだろうかと後々まで考えないではいられないだろう。
本書が描くのはこのようにして多くは人類の愚行と蛮行である。しかしたとえアフリカの狭い一角からに過ぎないとしても、読者は、砂漠とはどういうものか、砂漠を旅するとはどういうことか、部族や家族を結ぶ人間的な絆はどのようなものか、さらにはまたラクダやロバなどの興味深い生態についても教えられる。著者の働きは一介の通訳としての働きではなかった。その献身が結局は彼の命を救い、やがてこのような書物となってわれわれに届けられた。本書に登場する英米のジャーナリストはいずれも名の知られた人たちである。彼らの支援がなければ本書は日の目をみなかっただろう。
